IT資産台帳の作り方|PC・アカウント管理を最小構成で始める
「誰がどのパソコンを使っていて、どのサービスにアカウントを持っているか」をすぐに答えられる会社は、実はそれほど多くありません。IT資産台帳は、この問いに答えるための一覧表です。立派なシステムは必要ありません。端末・アカウント・契約サービスの3つの表を、Excelでも構わないので、まず作ることをおすすめします。この記事では、中小企業向けの最小構成の項目例と、更新が止まらない運用の工夫をご紹介します。
台帳がない会社で起きること
台帳がないこと自体で、すぐに困る場面はあまりありません。困るのは、何かが起きたときです。
- 退職した人のアカウントが残り、社外から社内の情報にアクセスできる状態が続く
- パソコンを紛失したとき、中にどんなデータが入っていたか、暗号化されていたかが分からない
- 使っていないクラウドサービスの契約に、気づかないまま支払いを続けている
- サポートが終了した古いパソコンが、現場で使われ続けている
- 担当者が辞めた後、契約の名義やログイン情報がどこにあるのか誰も分からない
どれも、私が中小企業からご相談を受けるときに、たびたび耳にする状況です。共通しているのは、「把握していないものは守れないし、やめることもできない」という点です。
最初に作る3つの表
資産台帳と聞くと、ソフトウェアのバージョンやIPアドレスまで細かく管理する姿を想像されるかもしれません。しかし、最初から項目を増やすと、更新が追いつかずに形だけの台帳になります。まずは次の3つの表を作ります。
1. 端末台帳(パソコン・スマートフォンなど)
| 項目 | 内容の例 |
|---|---|
| 管理番号 | 会社で付ける通し番号。本体にシールで貼る |
| 種類 | ノートPC、デスクトップ、スマートフォン、タブレット |
| メーカー・型番 | 保証やサポート期限の確認に使う |
| シリアル番号 | 紛失・盗難時の届け出に必要 |
| 利用者 | 現在使っている人の氏名。共用なら「共用」と部署名 |
| 購入日・購入先 | 保証期間と入れ替え時期の目安になる |
| OS | Windows、macOS、iOSなど。サポート期限の管理に使う |
| 状態 | 使用中、予備、修理中、廃棄済み |
| 備考 | 暗号化の有無、ウイルス対策ソフトの有無など |
2. アカウント台帳
| 項目 | 内容の例 |
|---|---|
| サービス名 | Microsoft 365、会計ソフト、勤怠システムなど |
| ユーザー名・ID | ログインに使う名前やメールアドレス |
| 利用者 | 実際に使う人。管理者権限なら明記する |
| 権限 | 一般、管理者、閲覧のみなど |
| 発行日 | いつ作ったか |
| 停止・削除日 | 退職や異動で不要になったとき |
| 多要素認証 | 設定済みかどうか |
パスワードそのものは台帳に書きません。台帳は「どこに何があるか」を示すもので、鍵そのものを置く場所ではありません。
3. 契約サービス台帳
| 項目 | 内容の例 |
|---|---|
| サービス名 | クラウドサービス、ソフトウェアのライセンス、回線など |
| 契約者・名義 | 会社名義か、個人のメールアドレスで契約していないか |
| 契約プラン・数量 | ライセンス数、ユーザー数 |
| 契約開始日・更新日 | 自動更新の有無も書く |
| 支払方法 | 請求書、クレジットカード、口座振替 |
| 社内の担当者 | 問い合わせや解約を判断する人 |
| 解約条件 | 何日前までに申し出が必要か |
この3つの表は互いにつながっています。人が辞めたら、端末を回収し、アカウントを止め、必要ならライセンス数を減らす。この流れを台帳の上でたどれるようにしておくことが目的です。
更新のタイミングを業務に組み込む
台帳が形だけになる最大の原因は、「気づいたときに更新する」運用です。更新する場面を、すでにある業務の手順に組み込みます。
- 入社時: 端末の貸与とアカウント発行と同時に、3つの表に追記する。入社手続きのチェックリストに1行加える
- 退職・異動時: 端末の回収、アカウント停止、権限変更を台帳で確認しながら行う。退職手続きの最後に「台帳更新済み」の欄を置く
- 購入・廃棄時: 発注した人、または経費精算を受けた人が、端末台帳と契約サービス台帳を更新する
- 年に1回の棚卸し: 全員に「今使っている端末とサービス」を申告してもらい、台帳と突き合わせる
総務や経理の手続きと台帳更新を同じ場所に置くことが、続けるための近道です。情シス専任の人がいなくても、この形なら回ります。
道具の選び方
台帳の中身が決まれば、道具は後から選べます。会社の規模と、すでに契約しているものに合わせて考えます。
- Excel: すぐに始められます。社員が数十名までで、更新する人が一人か二人なら十分です。ファイルの保存場所と、誰が編集するかだけ決めておきます
- SharePointリスト・Microsoft Lists: Microsoft 365を契約していれば追加費用なしで使えます。複数人で同時に編集でき、変更履歴が残り、入力欄の形式をそろえられる点がExcelより優れています。入退社のフォームと連携させることもできます
- 専用の資産管理ツール: 端末の情報を自動で収集し、ソフトウェアの更新状況まで把握できます。端末が百台を超えてくる、あるいは取引先からの監査で管理の証跡を求められる段階で検討します
最初はExcelで始め、更新する人が増えてきたらSharePointリストに移す、という順番で問題ありません。製品ごとの機能は変わりますので、公式ドキュメントで最新情報を確認してください。台帳の設計や、Microsoft 365の機能を使った運用の組み立ては、Microsoft 365 導入・運用支援でもお手伝いしています。
よくある質問
個人のスマートフォンを業務に使っている場合も、台帳に載せますか?
載せることをおすすめします。会社のメールや業務アプリにアクセスできる端末は、会社の情報が入る端末です。所有者が個人であることを「備考」に書いたうえで、紛失時の連絡先と対応を決めておきます。
台帳を作る時間がとれません。どこから手をつければよいですか?
アカウント台帳から始めるのが現実的です。退職者のアカウントが残っている状態は、セキュリティ上の影響が最も大きいからです。まず利用中のサービスを書き出し、各サービスの管理画面でユーザー一覧を確認して、知らない名前がないかを見るだけでも効果があります。
台帳を作ったあと、何に使えますか?
セキュリティの対策状況の確認、パソコンの入れ替え計画、使っていないサービスの解約、取引先からのセキュリティチェックシートへの回答などに使えます。台帳は守りのためだけでなく、無駄な支出を見つける道具にもなります。情シスの業務全体の中での位置づけは、情シス顧問サービスでご紹介しています。
まとめ
IT資産台帳は、端末・アカウント・契約サービスの3つの表から始めれば十分です。項目は最小限にし、入社・退職・購入・廃棄といった既存の手続きに更新を組み込むことで、形だけの台帳にならずに続きます。道具はExcelから始め、必要に応じてSharePointリストや専用ツールに移せばよいでしょう。「把握していないものは守れない」。この一点だけでも、台帳を作る価値があります。
