ひとり情シスの退職と引き継ぎ|最初の30日でやること

社内のITを一人で担ってきた「ひとり情シス」から退職の申し出があったとき、最初の30日間で何を押さえるかで、その後の混乱の大きさが決まります。優先順位は、管理者アカウントとパスワード、契約、台帳の確保です。手順書やマニュアルの整備は、その後でかまいません。この記事では、退職通知を受けた直後から引き継ぎ完了までの進め方と、よくある失敗、外部に頼る判断の目安を整理します。

最初の1週間:会社の「鍵」を確保する

退職の申し出を受けたら、まず確保すべきなのは会社のITの「鍵」です。具体的には、次の4つです。

  1. 管理者アカウント。Microsoft 365 や Google Workspace、会計ソフト、勤怠システムなどの管理者権限が、誰のアカウントに付いているかを確認します。退職者個人のアカウントにしか権限がない場合は、別の人のアカウントにも権限を付けてもらいます。
  2. パスワードと復旧手段。管理者のパスワードだけでなく、パスワードを忘れたときの連絡先メールや電話番号を確認します。ここが本人の携帯番号のままだと、退職後に誰もログインできなくなります。
  3. 契約と請求先。回線、ドメイン、クラウドサービス、保守契約などの契約者名、請求先、更新日を一覧にします。退職者のメールアドレスが連絡先になっていると、更新の案内が届かず、ドメインが失効する事故につながります。
  4. 台帳。パソコンの一覧、アカウントの一覧、ソフトウェアのライセンス一覧があれば、その所在を確認します。なければ、本人が頭の中で把握している内容を、この時点で書き出してもらいます。

この段階では、きれいな資料を求める必要はありません。メモ書きでもよいので、「どこに何があるか」を本人以外の人が見られる状態にすることが目的です。

2〜3週目:引き継ぎで最低限残す資料

鍵を確保したら、次は日々の運用を回すための資料です。退職までの時間は限られるので、欲張らずに次の5点に絞ります。

  • PC・アカウント台帳:誰がどの機器を使い、どのサービスのアカウントを持っているか
  • 契約一覧:サービス名、契約者、連絡先、更新時期、解約条件
  • 入社・退社の手順:アカウントの発行と停止、機器の貸与と回収の流れ
  • ベンダー連絡先と依頼の仕方:誰に、何を、どう頼めばよいか
  • よくあるトラブルの対処:Wi-Fiがつながらない、印刷できない、など頻度の高いもの

完成度より、「次の人が読んで動けるか」を優先します。本人に書いてもらうだけでなく、総務の方が隣で聞きながら書き取る形をおすすめします。本人には当たり前すぎて省かれてしまう前提が、資料に残るからです。

4週目:引き継ぎ先を決めて、実際に動かしてみる

資料がそろったら、退職日より前に、引き継ぎ先の人が実際に操作してみる時間を取ります。管理者アカウントでログインする、アカウントを1つ作って削除する、ベンダーに問い合わせる、といった作業を本人がいるうちに試します。資料を読むだけで分かった気になり、退職後に初めて操作して詰まる、という事態を防ぐためです。

引き継ぎ先が社内にいない場合は、この時期までに外部の相談先を決めておくと、退職者から直接説明を受けられます。退職後に外部に頼むと、過去の経緯を誰も知らない状態からの再構築になり、手間が大きく増えます。

よくある失敗

  • 退職者のアカウントをすぐ消してしまう。管理者権限や契約の連絡先を移す前にアカウントを削除すると、復旧に時間がかかります。削除ではなく、まずは停止(サインインの無効化)にとどめます。
  • パスワードを紙やチャットで共有して終わる。共有した後にパスワードを変えないと、退職者がログインできる状態が続きます。引き継ぎ後は必ず変更します。
  • 引き継ぎを「資料を受け取ること」で終わらせる。読んで分かるかどうかは、操作して初めて分かります。
  • 本人の善意に頼りきる。退職後も「困ったら電話します」で済ませると、本人の負担になり、いつか連絡が取れなくなります。退職後の協力をお願いする場合は、期間と範囲を決めておきます。

外部の情シス顧問に頼む判断基準

次のいずれかに当てはまる場合は、社内だけで引き継ぐより、外部の情シス顧問に相談する方が現実的です。

  • 引き継ぎ先の候補が社内にいない、または本業との兼務になる
  • 台帳や契約一覧がそもそも存在せず、ゼロから作る必要がある
  • 退職日まで1か月を切っていて、資料を作る時間がない
  • 次の担当者を採用する予定だが、入社まで数か月空く

情シス顧問は、退職者から直接引き継ぎを受け、台帳や手順を文書に残すところまでを担えます。その後は、新しい担当者が入るまでの間をつなぐ形でも、そのまま外部の情シス部門として続ける形でも選べます。詳しくは情シス顧問・情シス代行のページをご覧ください。

よくある質問

退職者が非協力的で、情報を出してくれません。どうすればよいですか?

まず、管理者アカウントの権限を別の人に付けることだけを最優先でお願いします。それが済めば、残りは管理画面から確認できる情報が多くあります。契約は、請求書やカードの明細から辿ることができます。

引き継ぎに、どのくらいの時間を見ればよいですか?

会社の規模と、既存の資料の有無で変わります。台帳が何もない状態なら、鍵の確保に1週間、資料作成に2〜3週間、確認に1週間が目安です。退職日が近い場合は、鍵の確保だけでも先に進めてください。

次の情シス担当を採用するまでの「つなぎ」だけでも頼めますか?

はい。引き継ぎを受けて台帳と手順を整え、新しい担当者に渡すところまでを区切って依頼いただけます。採用の要件を整理する段階から、相談いただくこともできます。

まとめ

ひとり情シスの退職で最初にやるべきことは、管理者アカウント、パスワードと復旧手段、契約、台帳の4つの「鍵」の確保です。その後に、日々の運用に必要な資料を5点に絞って残し、退職日より前に次の担当者が実際に操作してみる時間を取ります。社内に引き継ぎ先がいない、資料がない、時間がないという場合は、外部の情シス顧問を早めに巻き込むことで、退職者から直接引き継ぎを受けられます。